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丸官はんに、柿の核吹かけられたり

 「丸官はんに、柿の核吹かけられたり、口車に綱つけて廊下を引摺廻されたり、羅宇のポッキリ折れたまで、そないに打擲されやして、死身になって堪えなはったも、誰にした辛抱でもない、皆、美津さんのためやろな。」

「…………」

「なあ、貴方、」

「…………」

「ええ、多一さん、新枕の初言葉と、私もここでちゃんと聞く。……女子は女子同士やよって、美津さんの味方して、私が聞きたい。貴方はそうはなかろうけど、男は浮気な……」

 と見る、月がぱっちりと輝いた。多一は俯向いて見なかった。

「……ものやさかい、美津さんの後の手券に、貴方の心を取っておく。ああまで堪えやした辛抱は、皆女子へ、」

「ええ、」

「あの、美津さんへの心中だてかえ。」

 多一はハッと畳に手を……その素袍、指貫に、刀なき腰は寂しいものであった。

「御寮人様、御推量を願いとうござります。誓文それに相違ござりません。」

 お美津の両手も、鶴の白羽の狩衣に、玉を揃えて、前髪摺れに支いていた、簪の橘薫りもする。

「おお……嬉し……」

 と胸を張って、思わず、つい云う。声の綾に、我を忘れて、道成寺の一条の真紅の糸が、鮮麗に織込まれた。

 それは禁制の錦であった。

 ふと心付いた状して、動悸を鎮めるげに、襟なる檜扇の端をしっかと圧えて、ト後を見て、襖にすらり靡いた、その下げ髪の丈を視めた。

 お珊の姿は陰々とした。

 

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