2012年08月01日 00:14:11
おしゃべりに夢中になっていた村人たちは、その男がいつのまにか、その部屋から玄関にでてきていたのに、いっこうに気づかなかった。
「う、うう、わんわん!」
車のかげに小さくなっていたフィアレンサイドの犬が、きゅうにはげしくほえたてた。
「あっ!」
思わずふりかえった人びとは、玄関に不気味な人かげをみて、ぎょっと顔色をかえた。
そのとたん、
「馬車屋、なにをぐずぐずしているんだ! はやく荷物をはこべ!」
すご味のあるどなり声が、あたりをふるわせてひびいた。
フィアレンサイドが、びくっと飛びあがり、ホール夫人は棒立ちになった。
村人は、くものこをちらすように、後もみずにちっていった。
馬車屋は、しばらくためらっていたが、勇気をふるって男に近より、
「だんなさま。あいすみませんことで……おけがはありませんですか? なんとも、はや、申しわけありません」
コメント