2012年08月15日 21:41:38
それから数分ののち、電灯線への電流はすべて止められた。ここにはじめて飛行島は、完全に闇の中に包まれてしまった。
不意うちの送電中止に、飛行島のあちこちでは大まごつきであった。
臆病な白人の細君たちの中には、暗黒と敵襲との二重の恐しさに悲鳴をあげて泣き叫び、寝床の中にもぐりこむやら、ぶるぶる慄えながらかけまわるやら、大騒がはじまった。
「日本の潜水艦が、すっかり飛行島のまわりをとりまいてしまったってよ」
「それよりも大変なことが起きたのよ。海底牢獄に閉じこめてあった囚人を、誰かが行って解放してしまったそうよ」
「あっ、皆さん、しずかに! 爆音がきこえる。日本の飛行隊がいよいよ攻めてきた。ああどうしよう。あなたあ、――」
そういう騒の最中に、真暗な無線室の外を、どどどっと靴音をひびかせて通りすぎる一団がある。なにかわめいているが、暴徒だか監視隊だか、さっぱりわからない。その中に、
「無線室はどこだあ」
と、呶鳴って歩いている者がある。
「無線室はここだが、お前は誰だあ」
と応じた声があった。と同時にさっと懐中電灯がいきなり照らしつけられた。
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