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夢を見ているのでは

私は、夢を見ているのではなかろうかと疑った。
  至極古い方法であるが、私は、震える指先で自分の頬をつねった。
(痛い!)
 痛ければ、これは夢ではない。いや、そんなことを試みてみないでも、これが夢でないことは、よく分っていたのだ。
 夢でないとすれば――近づくあの足音の主は、誰であろうか?
 絶対不可侵を誇っていたクロクロ島に、私の予期しなかった人物が、いつの間にか潜入していたとは、全くおどろいたことである。そんな筈はないのだが……。
 だが、足音は、ゆっくりゆっくり、階段を下りてくる。私の体は、昂奮のため、火のように熱くなった。
 こっとン、こっとン、こっとン!
 ついに、階段下で、その足音は停った。
 ついで、扉のハンドルが、ぐるっと廻った。
(いよいよ、この室へはいってくるぞ!)
 何者かしらないが、はいって来られてはたまらない。私は、扉を内側から抑えようと思って立ち上ろうとした。
 だが私は、体の自由を失っていた。
 上半身を起そうと思って、床を両手で突っ張ったが、私の肩は、床の上に癒着せられたように動かなかった。
「畜生!」
 私は思わずうめいた。うめいても、所詮、だめなものはだめであった。
「あまり、無理なことをしないがいいよ」
 とつぜん私の頭の上で、太い声がした。
(あっ、彼奴の声だ。怪しい闖入者の声だ!)
 私は歯をくいしばった。
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