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僕はあきれ返ってしまった

僕はあきれ返ってしまった。そうして海老名弾正だの、当時よくトルストイものを翻訳していた加藤直士だのと数回議論をしたあとで、すっかり教会を見限ってしまった。
そして同時にまたうっかりはいりかけた「右の頬を打たれたら左の頬を出せ」という宗教の本質の無抵抗主義にも疑いを持って、階級闘争の純然たる社会主義にはいることができた。  戦争が始まるとすぐ、父は後備混成第何旅団の大隊長となって、旅順へ行った。  僕は父の軍隊を上野停車場で迎えた。そして一晩駅前の父の宿に泊った。  僕は父が馬上でその一軍を指揮する、こんなに壮烈な姿は初めて見た。ちょっと涙ぐましいような気持にもなった。しかし何だか僕には、父のその姿が馬鹿らしくもあった。「何のために、戦争に勇んで行くのか」と思うと、父のために悲しむというよりもむしろ馬鹿馬鹿しかったのだ。  宿にはいってからも、父やその部下の老将校等はみな会う人ごとに「これが最後のお勤めだ」と言って、ただもう喜び勇んでいた。僕はまたそれがますます馬鹿馬鹿しかった。  父は僕にただ「勉強しろ」と言っただけで、別に話ししたい様子もなく、ただそばに置いて顔を見ていればいいというような風だった。 町屋斎場 我が青春の追憶の日々

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