2012年12月29日 04:42:35
闇撃ち――飛んでもないことを言うと、彼は次郎左衛門の無法におどろいた。
八橋と言い合わせて、おれと手を切るためにわざとあんな無法な言いがかりをしたのではないかとも疑った。こうと知ったら、きょうは廓へ来るのではなかったものをと、彼は今更のように後悔した。
自分の方から遠ざかろうとしていながら、女の不実を責めるのは手前勝手かも知れないが、八橋が起請を灰にしたということは、どう考えても腹立たしかった。自分が今まで欺かれていたようにくやしく思われた。その女の手からなぜこの金を受取って来たのであろう。なぜ女のひたいに叩き付けて来なかったのであろうと、栄之丞は自分の弱い心を自分で罵り恥ずかしめたかった。
「お光も可哀そうだ」
彼はまた思い返した。
意気地なしと言われても、弱虫とあざけられても仕方がない。ともかくも目的の通りに金の才覚ができた以上は、早くこれを橋場へ届けて妹に安心させてやろうと思った。妹もおれのためには随分苦労している。せめてこういう時には兄甲斐のあるようにしてやらなければならないと、彼は妹が可愛さに一時の不平を抑えて、すぐに橋場の奉公さきへ急いで行った。
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