ログイン
英会話| 婚活| 北海道専門学校| 東北専門学校| 東海専門学校| 沖縄専門学校| ホームページ制作| 2万円HP制作|

先生を御覧なせえ

 ――旦那方。
 先生を御覧なせえ、いきなりうしろからお道さんの口へ猿轡を嵌めましたぜ。――一人は放さぬ、一所に死のうと悶えたからで。――それをね、天幕の中へ抱入れて、電信事務の卓子に向けて、椅子にのせて、手は結えずに、腰も胸も兵児帯でぐるぐる巻だ。
(時夫の来るまで……)
 そう言って、石段へずッと行く。
 私は下口まで追掛けたが、どうして可いか、途方にくれてくるくる廻った。
 お道さんが、さんばら髪に肩を振って、身悶えすると、消えかかった松明が赫と燃えて、あれあれ、女の身の丈に、めらめらと空へ立った。
 先生の身体が、影のように帰って来て、いましめを解くと一所に、五体も溶けたようなお道さんを、確と腕に抱きました。
 いや何とも……酔った勢いで話しましたが、その人たちの事を思うと、何とも言いようがねえ。
 実は、私と云うものは……若奥様には内証だが、その高崎の旦那に、頼まれまして、技師の方が可い、とさえと一言云えば、すぐに合鍵を拵えるように、道中お抱えだったので。……何、鍵までもありゃしません。――天幕でお道さんが相談をしました時、寸法を見るふりをして、錠は、はずしておいたんでございますのに――
 皆、何とも言いようがねえ、見てござった地蔵様にも手のつけようがなかったに違えねえ。若旦那のお心持も察して上げておくんなせえ。
 あくる日岨道を伝いますと、山から取った水樋が、空を走って、水車に颯と掛ります、真紅な木の葉が宙を飛んで流れましたっけ、誰の血なんでございましょう。」
 
 
(峰の白雪麓の氷
   今は互に隔てていれど)
 
 あとで、鋳掛屋に立山を聴いた――追善の心である。皆涙を流した……座は通夜のようであった。
 姨捨山の月霜にして、果なき谷の、暗き靄の底に、千曲川は水晶の珠数の乱るるごとく流れたのである。
大正九(一九二〇)年十二月
 
桶川 歯医者 ToMAブログ -なるほど!感心のネットエージェント
記事URL
1 |

カレンダー

<< 2012年05月 >>
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

テーマ

プロフィール

コメント

管理画面へ