2012年09月06日 21:37:40
「ええ、確かに吸血鬼です。この抉りとられたような頸もとの傷、それから紫斑が非常に薄いことからみても、恐ろしい吸血鬼の仕業に違いありません」
「すると、痣蟹が吸血鬼だという君のいつかの断定は撤回するのだネ」
捜査課長は検事の面を黙って見詰めていたが、しばらくして顔を近づけ、
「おっしゃる通り、痣蟹が吸血鬼なら、こんな殺され方をする筈がありません。吸血鬼は外の者だと思います」
「では撤回したネ。――すると本当の吸血鬼はどこに潜んでいるのだ。もちろん大江山君は、吸血鬼が覆面探偵・青竜王だとはいわないだろう」
「もちろんです。――実をいえば、私は最初吸血鬼は痣蟹に違いないと思い、次に青竜王かも知れぬと思ったんですが、両方とも違うことが分りました。外に怪しいと睨んでいるのは、最初の犠牲者四郎少年の兄だと名乗る、西一郎だけになるのですが……」と、其処まで云った課長は急に口を噤んで、あたりを見廻わした。それは冒険小説に出てくる孤島の洞窟のような実に異様な光景だった。「このパチノ墓地とかが飛び出して来たのでは、見当もなにもつかなくなりましたよ。一体これはどうしたことですかな」
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